【前編】いざカンヌへ。 ― 天郷醸造所、世界の舞台に立つ日
天郷醸造所は第79回カンヌ国際映画祭の公式パーティ「CANNES GALA」において、公式提供酒に選ばれた。異例のこの抜擢を受け、代表である中山雄介は5月15日から17日までの3日間、自らフランス・カンヌの地に足を運んだ。
現地でお酒が振る舞われたのは、5月15日「JAPANESENIGHT」、5月16日「EVEボール」、そして5月17日「CANNES GALA」本番の3日間。本シリーズでは、その3日間を「前編」「中編」「後編」の三部作として、中山が見て、感じて、語ったことをそのままお届けする。第一回となる今回は、出発からカンヌ到着、そして初日のレセプション「JAPANESENIGHT」までの記録だ。
天郷醸造所の中山です。
このたび、第79回カンヌ国際映画祭の公式パーティ「CANNES GALA」にて、私たち天郷醸造所のお酒を公式提供酒として選んでいただくという、身に余る機会をいただきました。日本の、それも一蔵元がこうした場に立たせていただけることは本当に稀なことで、せっかくなのでこの3日間で見たこと、感じたことを、自分の言葉で書き残しておこうと思います。
お酒を振る舞っていただいたのは、5月15日「JAPANESE NIGHT」、5月16日「EVEBALL」、そして本番の5月17日「CANNES GALA」の3日間。せっかくなので、この記録も3回に分けてお届けします。第一回の今回は、出発からカンヌに着くまで、そして初日の夜「JAPANESE NIGHT」までです。
■ パリからカンヌへ ― 車窓に流れる、もうひとつのフランス
パリから南仏カンヌまでは、TGVで約5時間半。正直、移動だけでこんなにかかるのかと最初は気が遠くなったんですが、乗ってみるとこれがすごく良い時間でした。
最初の1時間くらいは、本当にパリ郊外という感じなんです。畑があって、牛がいて、ぽつぽつと家が建っている。日本の田園風景とどこか重なって、なんだか懐かしいような気持ちになりました。それが南へ下るにつれて、少しずつ空気が変わっていくのが分かるんです。光の質感というか、空の色そのものが変わっていく。窓の外をぼーっと眺めているだけなのに、「ああ、確実に違う場所へ向かっているんだな」という実感が湧いてきました。
また、TGV内で出会った現地の方々はとても幸せそうに今を楽しんでいる感じで、乗り心地とは別に車内の空気がとても心地よい印象でした。
途中、トゥーロンという港町を通過しました。調べてみると、ここは若き日のナポレオンが砲兵士官として頭角を現した「トゥーロン攻囲戦」の舞台になった場所だそうです。歴史の転換点になった港町を車窓から眺めながら、自分も今、何か新しいことの入り口に立っているのかもしれない、と少し大げさに考えたりしていました。
そうこうしているうちに、車窓には地中海が広がってきて、空気そのものが「リゾート」のものに変わっていく。気づけばもう、カンヌは目前でした。
■ カンヌに着いて ― 「本物」しか通用しない街
カンヌに着いて、まず感じたのは街全体の独特な緊張感でした。
港にはとんでもなく大きなクルーザーが何隻も停泊していて、海岸沿いのプロムナードにはレッドカーペットが敷かれている。歩いている人たちの雰囲気も、これまで見てきた観光地とは明らかに違うんです。ふと隣を見たら、映画で観たことのある俳優さんが普通に歩いていたりする。誰も騒いでいないのに、街全体がピリッとしている。「ここでは中途半端なものは絶対に通用しないな」というのを、理屈ではなく肌で感じました。

カンヌ国際映画祭は、世界中から映画関係者やセレブリティ、ビジネスパーソンが集まる、文化と経済が交差する特別な場所です。今年は日本が「カントリー・オブ・オナー(Country of Honour) 2026」として迎えられていて、Marché du Film(フィルムマーケット)を中心に、日本の文化や産業を世界に発信するプログラムがいくつも組まれていました。私たちが参加させていただいた「JAPANESE NIGHT」も、その一つです。
■ JAPANESE NIGHT ― 自分たちのお酒が世界に。
向かったのは「JAPANESE NIGHT」の会場でした。日本の映画やカルチャーを世界に発信することを目的としたこのイベントには、名だたる日本企業さんが名を連ねていて、女優のMEGUMIさんも登壇されていました。
その会場の一角に、私たちの「AMANOSATO Cannes Special Edition」(天郷2nd)と「天郷ー序ー」を並べさせていただきました。
このカンヌ特別仕様は、無農薬・無化学肥料の合鴨農法で育てた山田錦と、農薬・肥料・ワックスを一切使わないあがのレモンを使ったお酒です。フレッシュなハーブの香りとほのかなバナナのニュアンスがふわっと立ち上がって、お米由来のなめらかな甘みと旨みが広がったあと、すっと奥行きのあるエレガントな余韻に変わっていく。720ml、アルコール度数は16〜18%で、専用の化粧箱に入れて、世界のVIPの皆さんをお迎えするための一本として用意しました。

「正直、最初は『日本のお酒、ちゃんと伝わるかな』という不安がありました。でも、グラスに注いでお渡しした瞬間の反応が、もう全然違うんです。香りを嗅いだ瞬間に表情がふっと変わって、一口飲むと『これは何のお米?』『このフルーティーさはどこから来てるの?』と、すごく具体的な質問が次々に飛んでくる。中には『この香り、さっき食べていた魚料理に絶対合う』って、その場でペアリングを語ってくれる方もいて。皆さんの『本物』を見極める感度の高さに、何度も驚かされました」
会場全体の評判も良くて、「もっと飲みたい」「ボトルごと譲ってほしい」なんて声までいただけたのは、本当にうれしかったです。

長い移動の疲れも忘れるくらい、初日から手応えを感じることができました。でも、このときの自分は、まだこれが「序章」でしかないことを知りませんでした。
翌5月16日、舞台はさらに華やかな夜へと続きます――中編「EVEBALLの夜」へ。